• Masanobu Matsuura

拙著『北朝鮮帰国事業の政治学―在日朝鮮人大量帰国の要因を探る』公刊のお知らせ


2022年3月に明石書店さんより、拙著『北朝鮮帰国事業の政治学―在日朝鮮人大量帰国の要因を探る』という書籍を出版させていただきました。



昨今の出版事情は大変に厳しく、特に、拙著のような学術書や専門書については、なかなか商業出版にこぎつけないのが実状です。その意味で本書の学術的、社会的意義について共感して下さった明石書店さんに感謝いたします。




同時に、日本学術振興会科学研究費助成事業による支援がなければ、研究成果を世に問うことがきなかった点を想起すれば、改めて、この事業が日本の学術レベルを支える柱になっていることを痛感しています。


少数ですが、これまでお世話になった方々や専門の研究者の方々に、著書献本などもさせていただいております。完全スルーされるパターンもありますが、ほとんどの方からは有益なコメントや励ましのお言葉、批評などご返答をいただきました。また、こっそりAmazonを覗ていみると、早速レビューを書いて下さった方もおり、ドキドキしながらコメントを読んだりしています(笑)。



本書の内容については、実際に手に取ってご評価いただければと思いますが、今回は、日朝関係を中心とする外交政策の観点から本書の内容について少し触れてみたいと思います。



日朝関係は、依然として、国交が樹立されておりません。今後、どのように国交正常化交渉が展開するのかは予断を許さない訳ですが、帰国事業によって帰国した日本人妻やその子供達をめぐる議論が両国の外交当事者の間で交わされることが容易に予想されます。



そこでひとつのカギになるのが、2014年スウェーデン・ストックホルムにて開催された日朝政府間協議(「ストックホルム合意」)です。



2014年5月、日朝間のストックホルム合意で、特別調査委員会に、帰国問題によって北朝鮮にわたった「日本人配偶者問題」を扱う分科会が設置されました。これは最高指導機関である当時の国防委員会が、冷戦期帰国事業に関与した朝鮮赤十字会や人民保安部を直接調査することを意味しています。



ただ、ご存じの通り、2016年から現在にかけて、北朝鮮による相次ぐ水爆・ミサイル発射実験等によって、日朝交渉は行き詰まりを見せています。このため、問題の解決を楽観視することは到底できません。それでも合意によって、帰国事業問題が政府間協議の枠組みに包摂された点は重要です。



というのも、日朝関係において帰国問題に適切に対応することが「非正常的」かつ「敵対的」関係を改善させる原動力となっており、この問題が日朝国交正常化交渉に影響を及ぼすことを両国が確認したからです。



その意味において、現在の日朝関係は、慰安婦や徴用工問題といった植民地期という戦前の「負の遺産」だけでなく、冷戦期の「負の遺産」といかに向き合うのかを検討する時期に来ている点を本書では指摘しております。



冷戦時代の二か国間関係を査定する必要のなかった日韓国交正常化交渉と日朝国交正常化交渉の性格が、大きく異なることを意味している訳です。


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